
「カジノ法に反対60%」は鵜呑みにするべからず
ざっくり言うと
- 「隠れカジノ支持者」を見落としてはいけない。
- ラスベガス・サンズの調査では、55%が賛成と回答。
- 大企業のうち賛成派は反対派の4倍。
2016年6月の英国のEU離脱に関する国民投票、そして11月の米大統領選挙と、事前の世論調査と実際の結果が異なったことで、大きな話題となりました。
米大統領選挙では、選挙前のほとんどの世論調査がクリントン氏の優位を予測していたにもかかわらず、トランプ氏が逆転勝利しました。世論調査の予測がはずれたのは、いわゆる「隠れトランプ支持者」の存在が調査結果を歪ませたとする分析が一般的です。つまり、世論調査に対して「私はトランプ支持者です」と答えることを躊躇した回答者が多く存在したということです。
カジノに関する世論調査でも同様に、「カジノ=ギャンブル=悪」といった一般的なイメージから、「私はカジノ賛成派です」とはなかなか言いづらい状況もあるように思います。そのため、カジノに関する世論を正しく推測するためには、世論調査のやり方や、回答者の心理を踏まえて調査結果を考察する必要がありそうです。
では、早速、最近の世論調査の結果を見ていきます。
<IR実施法が成立する直前>
7月6~9日に時事通信社が実施した個別面接方式での世論調査によると、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法への賛否は、「賛成」22.1%、「反対」61.7%、「どちらとも言えない・分からない」16.2%。
<IR実施法が成立した直後>
7月21、22日に共同通信社が実施した全国電話世論調査によると、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法への賛否は、「賛成」27.6%、「反対」64.8%。
7月23日の日本経済新聞に掲載された日経リサーチ社の世論調査によると、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法への賛否は、「賛成」27%、「反対」60%。
こちらの3つの世論調査では、いずれも「賛成」が約3割、「反対」が約6割で、IR実施法の成立の前後で大きな違いはないようです。
日本生産性本部の余暇創研が発行する「レジャー白書2018」では、2017年のパチンコ・パチスロ参加人口を900万人と推測しています。「パチンコ愛好者=カジノ賛成派」と考えるのは無理がありますが、カジノへの賛成が約3割という結果は、パチンコ愛好者の規模(成人の約1割)から考えても、決して低くないのではと思っています。加えて、前述の「隠れトランプ支持者」ならぬ「隠れカジノ支持者」の賛成票は、世論調査ではなかなか見えてこないため、カジノ賛成派は世論調査の結果以上に多く存在する可能性があります。
・2017年のパチンコ・パチスロ参加人口(推計)は、900万人(前年比40万人減)。
・参加率は、9.0%(前年比0.3ポイント減)。
・市場規模は、19兆5400億円(前年比4.3%減少)。
・年間平均活動回数は、29.4回(前年比0.4回減)。
・年間平均費用は、8万5100円(前年比3800円減)。
・参加希望率は、5.7%(前年比0.9ポイント減)。
出典:「レジャー白書2018」(速報ベース)より
一方で、世論調査が国民の声だとすると、逆にカジノ事業者側の言い分もあるようです。
7月24日、カジノ世界最大手ラスベガス・サンズ社のジョージ・タナシェビッチ専務は、毎日新聞などの取材に応じ、20日に成立したIR実施法の審議過程について、「カジノの負の側面ばかりに焦点を当てている。『IR=カジノ』という思考サイクルを破ってほしい」と不満を示しています。また、「カジノはIRの重要部分だ。ハンドルの無い車が走らないのと同じで、カジノは必要だ」とも述べたと報じられています。
ラスベガス・サンズ社は、7月15日に独自に実施した「IRに関する意識調査」の結果を発表しています。その調査結果は報道各社が行う世論調査とはまったく異なり、IRが日本にできることに55.8%が賛成し、今後、更に支持層が増える可能性を示唆しています。
・「IRついて聞いたことがある」=約8割
・「IRが、どのような施設かよく知っている」=24.9%
・「どのような施設かよく知らない人」 =53.8%
・「IRに行ったことがある」=16.4%、「IRに行ったことがない」=83.6%
・「IRが日本にできることに賛成」=55.8%
・「IRに対して賛成しない人のうち、カジノの面積規制、入場規制を説明後に賛成に変容もしくは緩和」=31.1%(一部賛成28.4%、すべて賛成2.7%)
この調査と報道各社が実施する世論調査とでは、調査のやり方も、調査に回答する対象者も大きな違いはありません。では、なぜここまで異なる結果になったのでしょうか?
調査票(アンケートの質問内容)が公開されていないため推測の域をでませんが、報道発表の資料を見ると、おそらくラスベガス・サンズ社の調査では、IRがどんなものかを正しく説明したうえで質問がなされたことが、一番の要因だと思われます。
また、報道発表の資料は、「正しい議論のためにより的確な情報を」と締めくくられており、IRの情報が国民に正しく伝わっていないことへの問題点を指摘しています。
最後に、もうひとつの視点となる、企業はIRの誕生をどのように受け止めているのでしょうか?
興味深い調査結果をふたつ紹介します。
2017年12月5日、朝日新聞社は「主要100社景気アンケート」の結果を発表しています。この企業を対象にしたアンケートでは、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法への賛否は、「賛成」「どちらかというと賛成」が計44社、「反対」「どちらかというと反対」の計9社。
大阪信用金庫は、四半期ごとに大阪府および兵庫県尼崎市の取引先約1800社を対象に実施している景気動向調査の結果を発表しています。その中で中小企業のIRへの賛否状況について報告がなされています。(2017年6月)
Q7.万博開催を予定している夢洲に、同時並行でIR(統合型リゾート)施設の誘致も進められています。IRの誘致について賛成ですか?反対ですか?
IR施設の大阪への誘致について、「賛成・どちらかといえば賛成」41.5%、「反対・どちらかといえば反対」14.9%と、大阪の中小企業はIRを極めて好意的に受け止めているようです。
しかしながら、企業側からIR賛成の声は、あまり聞こえてきません。その理由は、国民の6割が反対と報じられているIRへの参入表明は、企業イメージを大きく低下させるリスクがあるためだと思われます。
CAZYは、お仕事でエンターテイメント会社やアミューズメント会社によく出入りしているのですが、企業内では専門の部門を作ってかなり具体的にIRへの参入プランを検討していても、それを大々的公表している会社はほとんどありません。現状では、大手企業は、他社より先に出たくないと考えているようです。
しかしながら、IR実施法が成立し、今後、IRの全貌が明らかになっていくにつれて、企業からの賛同の声も大きくなっていくのではないでしょうか。