アンチカジノ論

ざっくり言うと

  • ひとくちにアンチカジノ論と言っても、その内容は玉石混交
  • カジノは、経済成長のエンジンにはなり得ず、経済成長の恩恵を「収穫」する産業でしかない
  • 議論の内容が統合型リゾートへの賛否ではなく、カジノへの賛否に終始している現状が残念

2019年3月26日、IR実施法施行令が閣議決定されましたが、本件を契機に多くの有識者やメディアが様々なアンチカジノ論を繰り広げています。ひとくちにアンチカジノ論と言ってもその内容は玉石混交。的を射た論考がある一方で、的外れなものも少なくありません。
今回は、珍しくアンチカジノ論に向き合ってみたいと思います。

まず、究極のアンチカジノ論は、1970年にノーベル経済学賞を受賞した米経済学者のポール・サミュエルソン氏が指摘するギャンブルの2つの経済学上の欠点。

①賭けの行為は、個人どうしの財貨の無益な移転にすぎない。しかも、何の産出物も生まないのに時間と資源とを吸い上げる。レクリエーションの限度を超えて行われる場合には、賭けの行為は国民所得の削減を意味する。

②賭け客がほとんど負ける結果になることで、所得の不平等と不安定を助長する。

ギャンブルが経済的な価値を生まないのはご指摘の通りなのですが、ギャンブルが無価値かと言えばそうではないと思っています。ギャンブルに一喜一憂する体験そのものは、経済的な価値はなくとも、個々人にとって貴重な価値を持つのではないでしょうか。


また、アンチカジノ論といえば、静岡大学人文社会科学部の鳥畑教授が書かれた書籍『カジノ幻想―「日本経済が成長する」という嘘』。国際金融の専門家によって豊富な統計データを元に執筆された本書、賛否両論あるようですがマーケティングをベースとするCAZYには、数ある書籍の中でもっとも納得できる論考でした。


『カジノ幻想』, 鳥畑与一(著), KKベストセラーズ

<Amazon紹介文>
日本のカジノ導入議論は、これまで「別の土俵からの空中戦」であった。つまり、カジノ推進派は地方再生・観光客増加などのメリットだけを強調し、反対派はギャンブル依存症問題・治安悪化などのデメリットだけを主張してきたわけだ。では、そもそも推進派が主張する「カジノで日本経済が成長する」は真実なのだろうか?本書では、「ゼロサム」「カニバリゼーション」「ジャンケット」「コンプ」といったキーワードから、IR型カジノの危うさを明らかにしていく。カジノの危険性と、そこに残された可能性から、カジノが日本を幸福にするのかを問い直す。

※本書は、IR推進法が公布される以前の2015年4月に発売されたもので、IR実施法施行後の現在では、状況が異なっている部分があります。


著者の鳥畑教授は、カジノは経済成長のエンジンにはなり得ず、経済成長の恩恵を「収穫」する産業でしかないとバッサリ切り捨てます。本書は、カジノ推進派が掲げる「観光客増加」、「雇用促進」、「地方再生」、「財政再建」などのメリットをひとつずつ反論していく構成となっています。

では、アンチカジノの主張を確認していきます。


<要旨>
「カジノ・ギャンブルは客が負けるほど収益が増大するビジネスであり、それはカニバリゼーションを通じて地域経済を衰退させばかりではない。「一攫千金」を期待させながらほとんどの客を負けに追い込むことで顧客を貧しくさせるビジネスである。そしてそれはギャンブル依存症という病を中心に大きな社会的犠牲とコストを地域社会に押しつけるものであり、到底、日本経済の停滞を克服し、経済成長の推進力となるものとは言えない。」(P64)


<カジノは人を不幸にするビジネス>
「100億ドルのIR投資を数年で回収すると同時に高水準の収益率を達成しようとすれば、年間に1兆円近いカジノ収益が必要だ。それは毎年10万円負ける客を1,000万人必要とする収益規模である。」(P23)

「カジノ企業が巨大な投資・雇用・税収、そして経済効果を約束するとき、それだけ多くの利益をギャンブラーから吸い上げていくことを意味する。」(P141)


<地方再生策にはなり得ない>
「統合型リゾートは、囲い込みのビジネスモデル。IR型カジノの恩恵が自動的に地域に及ぶことはなく、IR型カジノの来客を地域に惹きつける独自の魅力と努力が必要になるということ。それができなければ、IR型カジノは、周辺の既存の宿泊業や商店街、レストランなどの地域経済を担う中小企業を淘汰し、コミュニティの担い手である住民の流出を通じて地域社会を破壊していく危険性が高い。従来存在した経済を破壊し、そしてカジノに依存した経済構造に地域社会を変えていくことになる。カジノの利益は、カジノ企業とその関連企業に独占され、地域に広く還元されていかないのだ。」(P94)


<雇用創出策にはなり得ない>
「カジノの恩恵と言われる雇用増加もまた地域の負担を増していくと指摘される。カジノの雇用は、一部の高給の管理職を除けば、ディーラーなどの低賃金の不安定雇用で大半が占められている。約4割を占めるディーラーの平均年収はチップが半分を占めた場合で3万ドル(約360万円)程度であり、他の職種の平均に遠く及ばない。いわば「ワーキング・プア」に依存しているのがカジノなのであり、このような労働者の流入は受入れ自治体のインフラ整備や治安、社会保障等の財政負担を増すだけだ。」(P97)

※ディーラーの年収は、さすがにそこまでは安くないと思います。ざっくり500万円ぐらいかと。


<財政再建策にはなり得ない>
「カジノ推進派は、マカオやシンガポールの成功事例をもとに日本カジノの成功を目論みますが、両国の成功は日本にはあてはまらない。マカオやシンガポールは、同じ中華圏であることから収益の多くを中国本土の富裕層に依存している。中国政府は一回に持ち出せる資金を5,000ドルの制限を設けているが、ジャンケットと呼ばれるカジノ仲介業者を通して、数百万円、時には数億円の資金が流出しているのが実態である。しかしながら、日本はこのジャンケットを認めない方針であり、中国人VIP客に期待するのは、獲らぬ狸の皮算用と言わざるを得ない。また、外国人が客ならギャンブル依存症対策などにかかる社会的コストはゼロである。」(CAZY要約)

※IR実施法により、カジノ収益の30%のカジノ税(国庫15%、地方自治体15%)が決定しています。それなりの再建策にはなるのかと。


<ギャンブル依存症>
ギャンブル依存症については、コメントは控えさせていただきます。
自身がギャンブル依存症だった経験をふまえて、それを正当化するような論考は受け入れかねます。多くの反論があることを承知の上で申し上げると、ギャンブル依存症は、自己責任以外の何ものでもないと思っています。


カジノ推進派のCAZYですが、鳥畑教授のご指摘は概ね納得できる内容となっています。しかしながら、指摘されたデメリットを承知の上で、CAZYはカジノができることを望んでいます。正確には、カジノではなく統合型リゾートですが。

統合型リゾートがカジノをエンジンとする以上、当然、デメリットがあることは否めません。しかしながら、統合型リゾートはカジノだけで成立するものでもありません。統合型リゾートの一番の醍醐味は、カジノを核としつつも、時には一大エンターテインメント施設に、時には一大レジャーランドに、時には文化醸成・発信の場に、時にはビジネス発展の場にと、幅広い用途が期待できることです。

ラスベガスを例にすると、シルク・ドゥ・ソレイユのショーが毎日複数開催され、(今は終わってしまいましたが)ライオンキングやファントムなどの上質なミュージカル、セリーヌ、マライヤ、ガガ、エアロスミスなどの超大物ミュージシャンによるレジデンシー(長期間のコンサート)、格闘技のタイトルマッチと、そこには世界最高レベルのエンターテインメントが集約され、また、ビジネスシーンにおいても、世界最大級の家電見本市「CES」(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)が毎年開催されています。

ホンネを言えば、これらのエンターテインメントが日本で実現するのであれば、カジノはなくてもいいとも思っています。カジノで遊びたければ、海外に行けばいいだけですし、高い入場料(6,000円/回)を払うまでもないのかと。ただし、カジノの収益力なしに世界最高レベルのエンターテインメント施設ができないことは承知しています。

今後もカジノに関して、喧々諤々、より深い議論が繰り広げられていくと思いますが、議論の内容が統合型リゾートへの賛否ではなく、カジノへの賛否に終始している現状が残念でなりません。有識者の方には本質の議論を、また、メディア各社には正しい情報の提供を強く期待します。


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