チップ追跡システムがディーラーの健康を蝕む?

ざっくり言うと

  • 意外なところで語られたスマート・ゲームテーブル(カジノチップ追跡システム)の話
  • スマート・ゲームテーブルの導入とプレイヤーの税金逃れ対策は別の話
  • ディーラーの仕事は、より顧客サービスを重視した内容に変化していく

先日、Casino.orgに興味深い記事が掲載されていました。

Macau Lawmaker Demands Proof that ‘Radiation Tables’ are Safe for Dealers
『マカオの議員は、「放熱テーブル」がディーラーにとって安全であることの証明を求めている』

マカオのカジノディーラーの一部は、最新のスマート・ゲームテーブルがディーラーの健康を蝕んでいると疑っており、ある政治家は新しい技術が安全であることを裏付けるために、規制当局とカジノに詳しいデータの公開を求めているとのことです。

本記事、一見するとスマホの電磁波が脳に影響を及ぼしているに近い内容なのですが、特に興味深いのは、あまり語られることのないカジノでのチップ管理の内情が伝えられていることです。

 

◆スマート・ゲームテーブルとは

スマート・ゲームテーブルは、正式にはカジノチップ追跡システム(CCAS:Casino Chip Attribution Systems)のことです。チップに埋め込まれたRFIDタグとテーブルに仕込まれた読み取り装置でチップの動きを追跡し、チップの状況を記録します。

スマート・ゲームテーブルは、そのシステムが熱を発生させるためディーラーからは「放熱テーブル」と呼ばれ、それが健康被害をもたらすとして不信感を持たれています。 

 

◆進化するRFIDテクノロジー

RFIDは、2000年代半ばウィンラスベガスでチップに小さな送信装置が埋め込まれて以来、カジノでは広く使われるものとなっています。当初は、チップの偽造防止にのみ使用されていたRFIDですが、現在では、カジノが顧客の勝敗やプレイ内容を知るためのツールにまで進化しています。

RFIDの仕組みを進化させたスマート・ゲームテーブルでは、チップの販売額、チップの換金額、フィル(チップが不足した際の補充額)、クレジット(回収したチップが多くなった際の保管額)など、テーブル上にあるすべてのチップを数秒で計算し、リアルタイムでディーラーに伝え検証できるようになっています。従来、この作業は数時間おきにディーラーが行い、テーブルの収支や不正がないかを手作業で確認していました。

また、スマート・ゲームテーブルによって、ピットボスやカジノマネージャーは、ライブゲームの状況をリアルタイムに把握し、テーブルごと、ピットごと、バカラテーブル全体など、必要に応じたレポートをすぐに入手できるようになっています。

さらに、最新のシステムでは、従来のRFID技術に映像分析技術を融合して、チップの動きに加えて、プレイヤーがどんなハンドや出目で勝ったのかまでを自動で識別し記録するものも登場しています。

 

◆ゲーム履歴管理の是非

2019年11月27日、政府・与党は、カジノで得た所得に課税するための原案を税制調査会に示しましたが、その中で、プレイヤーの税金逃れを防ぐために、カジノにプレイヤーのチップ購入額、換金額、ゲームの勝敗などを記録・保存させる方向で検討するとのことでした。

具体的には、利用者が退場する際、チップを換金した額から、入場時と場内でチップを購入した額の合計を差し引いた分を所得とみなし課税対象とする。事業者が利用者ごとの購入・換金額や、個々のゲームの勝ち負けの記録を保存し、利用者に提供、申告してもらう仕組みにする。利用者ごとの勝ち負けを記録することで、カジノで勝った人が、負けた人にチップを預けて、所得を減らすといった不正も防ぐとしています。

これに対して、自民党のIRプロジェクトチームの岩屋毅座長は、カジノに多大な事務負担をかける内容であり、世界でそのような制度をとっている事例はないと説明し、より多くの訪日外国人客を呼び込むには、制度面でも国際競争性という観点を重視する必要があると指摘します。

カジノ課税案、自民党内から撤回求める動き-「投資意欲に影響」懸念

上記のとおり、最新のRFIDテクノロジーを用いれば、政府・与党が求めるプレイヤーのゲーム履歴管理は、さほど難しいことでも、大きく手間のかかることでもありません。また、既存のカジノをスマート・ゲームテーブル化するには莫大な追加投資を要しますが、これから誕生するであろう日本カジノにおいては追加コストにもなりません。

日本カジノは、ディーラーの不正防止と業務効率化を目的として、最新のスマート・ゲームテーブルが導入されることになるはずです。しかしながら、それをプレイヤーの税金逃れ対策に使うかどうかは、まったく別の話です。

 

◆さいごに

テクノロジーの進化によって、面倒なチップの棚卸し作業(Table Inventory)やコンプ提供のための顧客レイティング(評価)も極限まで簡略化され、次のフェーズではミスの許されない配当計算も自動化されることが容易に想像できます。今後、機械に仕事を奪われる職種の上位にカジノディーラーが挙げられるのはそのためです。

今後、ディーラーの仕事は、面倒な作業は機械にまかせて、より顧客サービスを重視した内容に変化していくことになりそうですね。