オンライン化によって、ギャンブルの賭け金が増える

ざっくり言うと

  • オンライン化で、好きな場所・時間に、ギャンブルができるようになった
  • ギャンブルは、ネット銀行やクレジットカードでできる手軽なものに
  • 現金から少し離れるだけで、人は道徳的束縛から解き放たれる

コロナ禍で無観客レースが続いているにもかかわらず、競馬、ボートレースなどの公営ギャンブルの売上は絶好調です。また、海外に目を向ければ、施設カジノは入場制限や休業で厳しい状況が続いている中、オンラインカジノやオンラインブックメーカーは売上を伸ばしています。

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オンラインギャンブルの躍進は、自宅など好きな場所で、テレワークの合間など好きな時間に、手軽にギャンブルができるようになったことが最大の理由ですが、現金ではなく、ネット銀行やクレジットカードで簡単にギャンブルができるようになったことも大きな要因となっています。

今回は、現金との距離が広がることで、ギャンブルが加速する現象について考察します。

 

◆カジノのチップは悪魔の発明

カジノでは、通常、紙幣を直接賭けることはせず、紙幣を一旦チップ(Chip、Check、Cheque)と呼ばれる擬似通貨に交換して、そのチップを賭けてゲームを楽しみます。正確には、25ドルや100ドルなど金額が記載されたものをチェック、ルーレットなどで使用する金額が記載されていないものをチップ(カラー・チップ)と呼びますが、本稿では、なじみのある言葉のチップで統一します。

カジノがチップを使用する理由は、紙幣より賭けやすい、見やすい、扱いやすいなどの理由とされていますが、最大の理由はプレイヤーにより多く賭けさせるためです。

紙幣では躊躇するような1,000ドルの賭けも、チップになってしまうと現実感が希薄化し、ゲーム感覚で賭けれてしまうのがチップの魔力。チップは人を道徳的束縛から解き放つための大きな役割を担っており、チップがカジノにおける最大の発明、悪魔の発明と揶揄されることも少なくありません。

 

◆アリエリー教授の実験

行動経済学の第一人者でデューク大学のダン・アリエリー教授が行った興味深い実験があります。

この実験は、簡単なテストを行い、被験者にその自己採点結果を申告させて、正解数によって報酬を支払うというものです。

Aグループ:「X問正解したので、Xドルください」と申告し直接現金を受け取る

Bグループ:「X問正解したので、X枚のチップをください」と申告しチップを受け取った後、3~4メートル離れたテーブルまで歩いていって、そこでチップと引き換えに現金を受けとる

AグループもBグループも同じことをやっているのですが、Bグループはチップを介すひと手間が多くなっています。

結果、Bグループは、Aグループより2倍多く正解数をごまかし、多額の報酬を受け取りました。この実験から、人はチップのような現金ではないものを介することで、本物の現金を前にするより不正をしやすくなることが明らかになっています。

つまり、この実験は、現金から少し離れるだけで、人は道徳的束縛から解き放たれることを示唆しており、アリエリー教授は、社会のキャッシュレス化が進むにつれて、道徳的指針がどんどん損なわれることに大きな懸念があると述べています。

 

さらに、不正行為との距離によって、不道徳な行動をする傾向がどう変わるかを調べたゴルフの調査があります。こちらもアリエリー教授によるもので、1万2,000人のゴルファーがアンケートに回答しています。

質問:
「あるゴルファーがボールをいまの場所から10センチほど動かすと、非常に打ちやすくなることがわかりました。ゴルファーが以下の方法でボールを10センチ動かす可能性はどれくらいあると思いますか?」 

①クラブを使って動かす
②靴で蹴って動かす
③ボールを拾いあげて10センチ離れた場所に置き直す 


アンケートの結果は、「①クラブを使って動かす」が23%、「②靴で蹴って動かす」が14%、「③ボールを拾いあげて10センチ離れた場所に置き直す」が10%となり、こちらの実験でも、距離が遠くなると不道徳な行動をする傾向が高くなることが明らかにされています。

「ボールを手で拾いあげて位置を修正すれば、その行為の意図性と故意性に目をつむれなくなり、そのため自分が倫理に反することをしたと感じずにいられない。靴でボールを蹴るときは、行為との距離が少しあるが、それでも蹴るのは自分だ。ところがボールを叩くのがクラブなら(とくに、偶然あたったかのように無造作にボールを動かせば)、自分の行ないを比較的簡単に正当化できる。」
『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』(ダン・アリエリー著)

 

◆さいごに

ギャンブルの場所がオンラインにシフトし、賭けるものが現金から預金残高やクレジット明細上の数字に変化したことで、道徳的なブレーキが利きにくくなっています。これは、オンラインショッピングでつい余計なものを買ってしまうことと同じです。

そのため、イギリスやドイツなど、ギャンブル先進国では、すでにクレジットカードでのギャンブルが禁止されています。

オンラインでの賭けすぎにはご注意を!


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<3月7日追記>
本稿を裏付ける興味深いグラフが現代ビジネスに掲載されていました。
JRAの発表によると、馬券のネット購入比率は年々増加し約7割に達していますが、平均購入額もそれに比例するかのように増加しており、アリエリー教授の指摘を裏付けています。
一方で、ボートレースの平均購入額はV字型の不可解な奇跡を描いており、こちらについては更なる考察が必要です。昨今の度重なるルール改正でインコース優位を強化したゲーム性の変化によるものなのか、顧客層が大きく入れ替わったことによるものなのか、様々な要因が考えられます。この件はもう少し調べてみようと思います。

「公営ギャンブル」がコロナ禍でも大盛況…だが、手放しに喜んではいられないワケ


(グラフ出典:現代ビジネス